ADHDの人が片付けに苦労するのは周知の事実ですが、実は同じADHDでも、脳の情報処理の仕方には個人差があります。視覚情報が得意な人、聴覚情報が得意な人、体を動かすことで理解が深まる人など、認知特性によって効果的な整理整頓の方法は大きく異なります。

今回は、自分の認知特性を理解し、それに合った整理整頓の方法を見つけるためのガイドを提供します。

認知特性とは何か

認知特性とは、情報をどのような形で処理しやすいかという脳の傾向のことです。主に以下の3つのタイプに分類されます。

視覚優位型

目から入る情報を処理するのが得意なタイプです。文字、図、色、形などを認識し記憶することに長けています。話を聞くよりも、図や表で見た方が理解しやすい傾向があります。

聴覚優位型

耳から入る情報を処理するのが得意なタイプです。文章を読むよりも、誰かに説明してもらった方が理解しやすく、音楽や音声での記憶が得意です。

身体感覚優位型(運動感覚型)

体を動かしながら、または触れながら情報を処理するのが得意なタイプです。実際にやってみることで理解が深まり、手を動かすことで記憶に残りやすい特性があります。

多くの人は複数の特性を持っていますが、どれか一つが特に強い場合が多く、その特性を活かすことで整理整頓の効率が大きく変わります。

自分の認知特性を知る簡単なチェック

以下の質問に答えて、自分がどのタイプに近いか確認してみましょう。

視覚優位型チェック

  • 地図や図解を見れば、すぐに理解できる
  • 人の顔や場所の風景をよく覚えている
  • 色や形の違いに敏感
  • 部屋の配置が少し変わると気づく
  • メモを取る時、図や矢印をよく使う
  • 物が視界に入っていないと、存在を忘れる

聴覚優位型チェック

  • 人の話を聞いて理解するのが得意
  • 音楽の歌詞やメロディをすぐに覚える
  • 電話番号や数字を音として覚える
  • 独り言を言いながら作業することが多い
  • 読書よりもオーディオブックの方が頭に入る
  • BGMや周囲の音が気になる

身体感覚優位型チェック

  • 体を動かしながらの方が考えがまとまる
  • 実際に触ったり試したりしないと理解できない
  • じっとしているのが苦手
  • 手触りや温度の感覚を重視する
  • 説明を聞くより、実際にやってみたい
  • 物の配置を体で覚えている

該当する項目が多いタイプが、あなたの優位な認知特性です。

視覚優位型ADHDのための整理整頓術

視覚優位の人は、見える化と色分けが鍵になります。

オープン収納を基本にする

引き出しや扉のある収納は避け、物が見える状態を維持します。オープンシェルフ、壁掛けフック、透明な容器などを活用し、すべての持ち物が視界に入る配置にします。

クローゼットも扉を開けっぱなしにするか、カーテンタイプにして中身が見えやすい状態を保ちます。

色分けシステムを導入する

カテゴリーごとに色を割り当て、一目で識別できるようにします。仕事関連は青、趣味は赤、家事関連は緑など、色で判断できる仕組みを作ります。

ファイルボックス、バインダー、収納ケースなど、すべて色で統一すると管理しやすくなります。

ラベルは文字+ビジュアルで

ラベルを貼る際は、文字だけでなく写真やイラストも添えます。中身の写真を撮って貼り付けるだけでも、何がどこにあるか一目で分かります。

配置図を作る

理想の部屋の配置を写真に撮るか、簡単な図を描いて壁に貼っておきます。散らかった時に、その図を見れば元の状態に戻せます。

ホワイトボードやコルクボードを活用

やるべきことや期限を視覚的に管理します。手書きのメモを貼ったり、カレンダーを大きく表示したりして、目に入る場所に配置します。

デジタルツールは視覚的なものを選ぶ

タスク管理アプリはカンバン方式(Trelloなど)を使い、進捗を視覚的に確認できるようにします。カレンダーアプリも色分け機能を活用します。

聴覚優位型ADHDのための整理整頓術

聴覚優位の人は、音声や言葉を活用した方法が効果的です。

音声メモを活用する

片付けのルールや物の定位置を音声で録音しておきます。スマホのボイスメモ機能を使い、「リモコンはテレビの横の箱に入れる」など、具体的な指示を自分の声で記録します。

散らかった時にその音声を聞けば、何をすべきか思い出せます。

セルフトークで行動を言語化する

片付けをする時、自分の行動を声に出して実況します。「今から洗濯物を畳む」「この本は本棚に戻す」と言葉にすることで、注意が逸れにくくなります。

独り言に抵抗がある場合は、小声やささやきでも効果があります。

タイマーに音声ガイドを設定する

片付けのタイミングをアラームで知らせる際、音声メッセージを設定します。「そろそろ机を片付ける時間です」など、具体的な行動を音声で伝えるようにします。

ポッドキャストやBGMを活用する

片付けをする時に、お気に入りの音楽やポッドキャストを流します。「この曲が流れている間だけ片付ける」というルールを作ると、時間管理もしやすくなります。

聴覚優位の人は、無音よりも適度な音がある方が集中できる傾向があります。

誰かに報告する習慣を作る

家族や友人に「今から片付けをする」と宣言したり、終わった後に報告したりする習慣を作ります。言葉にすることで行動へのコミットメントが強まります。

オンラインコミュニティやSNSで報告し合うのも効果的です。

音声入力でリスト作成

やるべきことや買い物リストを作る際、音声入力を使います。タイピングよりも、話す方が思考の整理がしやすく、抜け漏れも減ります。

身体感覚優位型ADHDのための整理整頓術

身体感覚優位の人は、体を動かしながら整理する方法が向いています。

動線優先の配置にする

理論的な配置ではなく、体が自然と動く流れに沿って物を配置します。実際に生活してみて、「いつもここに置いてしまう」という場所があれば、そこを正式な定位置にします。

体が覚えている動きに逆らわず、動線に合わせて環境を調整します。

触覚的な手がかりを使う

物の定位置に、触って分かる目印をつけます。滑り止めシート、異なる素材のマット、凹凸のあるラベルなど、手触りで識別できるようにします。

暗闇でも手探りで分かる配置にしておくと、視覚に頼らず管理できます。

立ちながら整理する

座って考えるより、立って体を動かしながら整理します。片付けをする時は、音楽をかけて体を揺らしたり、歩き回ったりしながら行うと集中が続きます。

実際に試して最適解を見つける

頭で考えるより、実際に複数のパターンを試してみます。収納の位置を変えて数日過ごし、どれが一番使いやすいか体感で判断します。

重さや大きさで分類する

カテゴリーではなく、物理的な特徴で分類します。重い物は下、軽い物は上、大きい物は奥、小さい物は手前など、体感的に分かりやすい基準で配置します。

ルーティンを体に染み込ませる

同じ時間、同じ順序で片付けを繰り返し、体に動きを覚えさせます。朝起きたらベッドを整える、帰宅したら鍵を玄関の棚に置く、といった一連の動作をセットで習慣化します。

参考記事 

https://www.katazukerarenai.com/special/self_check

複合型の場合の対処法

多くの人は複数の特性を持っています。その場合は、以下のように組み合わせます。

視覚+聴覚優位型

色分けされたボックスに音声ラベルを貼る、視覚的なタイマーと音声アラームを併用するなど、両方の感覚を刺激する方法を取り入れます。

視覚+身体感覚優位型

目で見て、実際に触って確認できる収納にします。透明な容器を使いながら、手が届きやすい高さに配置し、物の重さや大きさも考慮します。

聴覚+身体感覚優位型

音楽を聴きながら体を動かして片付ける、音声メモで動作手順を記録するなど、音と動きを組み合わせた方法が効果的です。

自分に合わない方法は捨てる

整理整頓の本やブログで紹介されている方法が、自分に合わないと感じたら、無理に続ける必要はありません。

視覚優位の人に「見えない収納」を強制しても機能しませんし、聴覚優位の人に「黙って集中して片付ける」ことを求めても効果はありません。

自分の認知特性を理解し、それに合った方法を選ぶことで、整理整頓のストレスは大幅に減ります。

トライアル期間を設ける

新しい整理方法を試す時は、最低2週間は続けてみましょう。最初は慣れないため、本当に合っているかどうかは数日では判断できません。

2週間経っても明らかに使いにくい、ストレスが大きい、散らかりが改善しないという場合は、別の方法を試します。

自分に最適な整理整頓術を見つけるには、試行錯誤が必要です。焦らず、自分の脳の特性と対話しながら、快適な環境を作っていきましょう。

投稿者 admin