賃貸住宅をゴミ屋敷状態にしてしまった場合、退去時に最も不安なのが「原状回復費用」です。「何十万円も請求されるのでは」「敷金だけでは足りないかも」という恐怖から、退去を先延ばしにしてしまう方もいます。
実際、ゴミ屋敷の原状回復にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。今回は、費用の相場と内訳、そして少しでも安く抑えるためのポイントを詳しく解説します。
原状回復とは何か
まず、原状回復の基本的な考え方を理解しましょう。
法律上の原状回復義務
賃貸住宅では、退去時に「入居時の状態に戻す」義務があります。ただし、これは「新品同様にする」という意味ではありません。
国土交通省のガイドラインによると、通常の使用による損耗(経年劣化)は貸主負担、借主の故意・過失による損耗は借主負担とされています。
ゴミ屋敷の場合
ゴミ屋敷状態は、明らかに「通常の使用」を超えています。そのため、通常の退去よりも原状回復費用が高額になることは避けられません。
借主負担となる主な項目
- ゴミの撤去・処分費用
- 害虫駆除費用
- 特殊清掃費用
- 床・壁・天井の張り替え(汚損・破損がある場合)
- 異臭除去(消臭・脱臭)
- 設備の交換(ひどく汚れている場合)
ゴミ屋敷の原状回復費用の相場
部屋の広さと状態によって、費用は大きく変わります。
間取り別の費用相場
ワンルーム・1K(20㎡程度)
- 軽度:10万円〜20万円
- 中度:20万円〜40万円
- 重度:40万円〜80万円
1DK・1LDK(30〜40㎡程度)
- 軽度:15万円〜30万円
- 中度:30万円〜60万円
- 重度:60万円〜120万円
2LDK(50〜60㎡程度)
- 軽度:20万円〜40万円
- 中度:40万円〜80万円
- 重度:80万円〜150万円
3LDK以上(70㎡以上)
- 軽度:30万円〜60万円
- 中度:60万円〜100万円
- 重度:100万円〜200万円以上
状態による分類
軽度のゴミ屋敷
- ゴミや不用品が溜まっているが、床や壁は概ね綺麗
- 害虫の発生はない、または少ない
- 悪臭はあまりない
- 通常清掃で対応可能な範囲
中度のゴミ屋敷
- 床が見えないほどゴミが積み重なっている
- 害虫が発生している
- 悪臭がある
- 床や壁に汚れやシミがある
重度のゴミ屋敷
- 天井近くまでゴミが積み重なっている
- 害虫が大量発生している
- 強烈な悪臭がある
- 床や壁、設備が著しく損傷している
- 特殊清掃が必要なレベル
費用の内訳
原状回復費用は、複数の項目で構成されています。
ゴミ撤去・処分費用
相場 1Kで5万円〜15万円程度。ゴミの量と種類によって変動します。
費用に影響する要因
- ゴミの総量(トラック何台分か)
- 分別が必要か
- 粗大ゴミの有無
- 搬出の難易度(エレベーターの有無、階数)
清掃費用
通常清掃 1Kで3万円〜8万円程度。
特殊清掃 汚染がひどい場合は10万円〜30万円以上かかることもあります。
害虫駆除費用
相場 1Kで3万円〜8万円程度。害虫の種類と発生状況によって異なります。
ゴキブリ、ハエ、ウジ虫などが大量発生している場合、複数回の駆除が必要になることもあります。
消臭・脱臭費用
相場 1Kで3万円〜10万円程度。オゾン脱臭や特殊コーティングが必要な場合はさらに高額になります。
悪臭が壁や床に染み込んでいる場合、完全に除去するのは困難です。
リフォーム費用
床の張り替え 1Kで10万円〜30万円程度。フローリングかクッションフロアかで変わります。
壁紙の張り替え 1Kで5万円〜15万円程度。通常の退去でも行われることが多いですが、ゴミ屋敷の場合は全面張り替えになります。
畳の交換 1畳あたり1万円〜2万円程度。
設備の交換 キッチン、浴室、トイレなどの設備が著しく汚損している場合、交換が必要になることがあります。これは数十万円単位の費用になります。
敷金でまかなえるのか
多くの人が気にするのが、「敷金だけで足りるか」という点です。
敷金の一般的な金額
賃貸契約時に支払う敷金は、通常、家賃の1〜2ヶ月分です。家賃7万円なら7万円〜14万円程度です。
軽度なら敷金内で収まる可能性も
ゴミ屋敷といっても軽度で、ゴミの撤去と通常清掃だけで済む場合、敷金内で収まる可能性があります。
ただし、中度以上になると、敷金だけでは足りず、追加請求される可能性が高いです。
追加請求のリスク
重度のゴミ屋敷の場合、原状回復費用が100万円を超えることもあります。敷金を差し引いた残額を請求されます。
支払えない場合、法的措置を取られる可能性もあるため、早めに対処することが重要です。
費用を安く抑えるポイント
少しでも原状回復費用を抑えるために、できることがあります。
自分でできることは自分でやる
ゴミの分別と処分 自治体のゴミ収集を利用して、自分でゴミを処分すれば、業者に頼むより大幅に安くなります。時間はかかりますが、数週間かけて少しずつ処分すれば、費用はほぼゼロです。
簡易清掃 ゴミを撤去した後、自分で掃除機をかけたり、水回りを清掃したりすることで、清掃業者の作業時間を減らせます。
不用品の売却 まだ使える家電や家具は、リサイクルショップやフリマアプリで売却しましょう。少しでもお金になれば、原状回復費用の足しになります。
早めに対処する
ゴミ屋敷状態が長く続くほど、汚損は進行します。床や壁に染みができたり、害虫が繁殖したりする前に、早めに片付けることが費用を抑える最大のポイントです。
複数の業者から見積もりを取る
ゴミの撤去や清掃を業者に依頼する場合、必ず複数の業者から見積もりを取りましょう。業者によって料金は大きく異なります。
3社以上から見積もりを取り、料金だけでなくサービス内容も比較しましょう。
大家や管理会社と交渉する
原状回復費用の見積もりが出たら、大家や管理会社と交渉の余地があるか相談してみましょう。
分割払いの相談や、一部の工事を自分で手配することで費用を抑える提案など、誠意を持って相談すれば、柔軟に対応してくれる場合もあります。
消費者センターや弁護士に相談
提示された原状回復費用が明らかに高額すぎる、不当な請求が含まれていると感じた場合、消費者生活センターや弁護士に相談することも検討しましょう。
国土交通省のガイドラインに照らして、不当な請求部分を削減できる可能性があります。
支払えない場合の対処法
高額な原状回復費用を一括で支払えない場合、どうすればいいのでしょうか。
分割払いの交渉
まずは大家や管理会社に、分割払いが可能か相談しましょう。誠実に支払う意思を示せば、応じてくれる場合があります。
法テラスの利用
経済的に余裕がない場合、法テラスで無料法律相談を受けられます。弁護士費用の立替制度もあります。
債務整理の検討
他にも借金があり、総合的に返済が困難な場合、債務整理を検討する必要があるかもしれません。専門家に相談しましょう。
逃げずに向き合う
最もやってはいけないのが、請求を無視して逃げることです。連絡を取らずにいると、法的措置を取られ、状況は悪化します。
支払いが困難でも、誠実に連絡を取り、対応する姿勢を見せることが重要です。
今後ゴミ屋敷にしないために
一度原状回復費用を支払った経験を、今後に活かしましょう。
定期的にゴミを捨てる習慣
週2回のゴミの日は必ず出す習慣をつけましょう。ゴミ捨てアプリでリマインダーを設定するのも有効です。
物を増やさない
新しい物を買う時は、古い物を1つ手放すルールを作りましょう。物の総量を増やさないことが、ゴミ屋敷化を防ぎます。
家事代行サービスの活用
月1回でも家事代行サービスを利用すれば、部屋が散らかりすぎることを防げます。月数千円の投資で、将来の高額な原状回復費用を避けられます。
心の問題に向き合う
ゴミ屋敷になる背景に、うつ病や不安障害、ADHD、買い物依存症などがある場合、根本的な治療が必要です。
専門家のサポートを受けながら、心の健康を保つことが、部屋を維持する基盤になります。
まとめ
ゴミ屋敷の原状回復費用は、部屋の広さと状態によって10万円から200万円以上まで幅があります。敷金だけでは足りない可能性が高く、追加請求を覚悟する必要があります。
しかし、早めに対処すれば費用を抑えられます。自分でできることは自分でやり、複数の業者から見積もりを取り、大家や管理会社と誠実に交渉することが大切です。
最も重要なのは、問題から逃げずに向き合うことです。一時的には辛くても、きちんと対処すれば必ず解決できます。
そして、同じ状況を繰り返さないよう、生活習慣を見直し、必要であれば専門家のサポートを受けながら、快適な住環境を維持していきましょう。