製造業 自動化を推進する上で、最も重要な要素の一つが「安全性」です。従来の産業用ロボットは高速で強力なため、安全柵で人間とロボットの作業エリアを完全に分離する必要がありました。しかし、協働ロボットは人と同じ空間で安全に作業できるよう設計されており、その実現の鍵となるのが「衝突検知機能」です。
本記事では、協働ロボットがなぜ人と共存できるのか、衝突検知機能の仕組み、安全規格、そして導入時の安全対策について詳しく解説します。
協働ロボットと従来型産業用ロボットの安全性の違い
協働ロボットが登場する以前、工場で使われていた産業用ロボットは、人との接触を前提としない設計でした。まずはその違いを理解しましょう。
従来型産業用ロボットの安全対策
従来型の産業用ロボットは、高速・高出力で動作するため、人と接触すると重大な事故につながる危険性がありました。そのため、以下のような厳格な安全対策が義務付けられていました。
物理的な隔離
ロボットの作業エリアを安全柵で囲み、人が立ち入れないようにします。安全柵にはインターロック機能が付いており、扉が開くとロボットが自動停止する仕組みです。
広大な設置スペースの必要性
安全柵を設置するため、ロボット本体の作業範囲に加えて周囲に十分なスペースが必要となり、中小企業の限られた工場スペースでは導入が困難でした。
柔軟性の欠如
安全柵で固定されたレイアウトのため、生産品目の変更や工程変更に対応しにくく、多品種少量生産には不向きでした。
協働ロボットの革新的な安全設計
協働ロボットは「人と同じ空間で安全に作業できる」という全く新しい設計思想で開発されています。
安全柵不要の設計
国際安全規格ISO 10218-1およびISO/TS 15066に準拠した設計により、特定の条件下で安全柵なしでの運用が可能です。
力と速度の制限
協働ロボットは、人と接触した際の衝撃力が人体に危害を及ぼさないレベルに制限されています。最大動作速度や出力トルクが設計段階で抑えられており、万が一接触しても重大な怪我につながりません。
省スペース設置
安全柵が不要なため、既存の生産ラインの一角に設置でき、中小企業でも導入しやすくなっています。
愛知 ロボット導入が進む自動車部品メーカーなどでは、この省スペース性が高く評価されています。
衝突検知機能の仕組みと技術
協働ロボットの安全性を支える中核技術が「衝突検知機能」です。この機能がどのように人との接触を検知し、安全を確保しているのかを解説します。
トルクセンサーによる力覚検知
最も一般的な衝突検知方式が、各関節に搭載されたトルクセンサーによる力覚検知です。
仕組み
ロボットの各関節には、モーターの電流値やトルクを常時監視するセンサーが組み込まれています。通常動作時とは異なる予期しない負荷が検出されると、それを「衝突」と判断してロボットを即座に停止させます。
検知精度
最新の協働ロボットは、わずか数ニュートン(数百グラム程度の力)の異常な負荷を検知できます。例えば、作業者の手がロボットアームに軽く触れただけでも検知し、停止できる精度を持っています。
応答速度
衝突を検知してから停止するまでの時間は、通常0.1秒以下です。この高速応答により、接触時の衝撃力を最小限に抑えられます。
電流モニタリング方式
一部の協働ロボットでは、トルクセンサーの代わりにモーター電流を監視する方式を採用しています。
仕組み
モーターが駆動する際の電流値は、負荷に応じて変化します。予期しない負荷が加わると電流値が異常に上昇するため、これを検知して停止します。
メリット
トルクセンサーが不要なため、コストを抑えられます。また、機構がシンプルなため故障しにくいという利点もあります。
外部センサーとの統合
より高度な安全性を実現するため、ロボット本体の衝突検知機能に加えて外部センサーを組み合わせるケースもあります。
ビジョンセンサー(3Dカメラ)
ロボットの作業エリアを3Dカメラで監視し、人が近づいたことを事前に検知します。人との距離に応じてロボットの速度を自動的に減速させる「スピード&セパレーション」方式が実現できます。
レーザースキャナー
作業エリアの境界にレーザーセンサーを設置し、人が侵入したことを検知します。検知エリアを複数設定し、エリアごとに異なる安全対応(速度低下、一時停止、完全停止など)を設定できます。
触覚センサー(スキンセンサー)
ロボットアーム表面に柔らかい触覚センサーを装着し、接触をより確実に検知します。特に複雑な形状の作業を行う場合に有効です。
国際安全規格と認証
協働ロボットの安全性は、国際的な安全規格に基づいて評価・認証されています。
ISO 10218-1(ロボット本体の安全規格)
産業用ロボットの安全要求事項を定めた国際規格で、ロボットメーカーが遵守すべき基準が規定されています。
主な要求事項
- 非常停止機能の搭載
- 速度制限機能
- 力制限機能
- 安全関連制御システムの信頼性
協働ロボットとして販売されるためには、この規格への適合が必須です。
ISO/TS 15066(協働ロボットの技術仕様)
協働ロボット特有の安全要求事項を定めた技術仕様書です。人とロボットの協働作業における4つの方式と、それぞれの安全要件が規定されています。
協働作業の4つの方式
- 安全監視付き停止
人が協働エリアに入るとロボットが停止し、人が離れると自動的に再開する方式。 - ハンドガイド
作業者がロボットアームを手で直接動かしてティーチングする方式。ロボットティーチングの際によく使われます。 - 速度と距離の制御
人とロボットの距離に応じてロボットの速度を自動調整する方式。人が近づくと減速し、離れると通常速度に戻ります。 - 力と出力の制限
人と接触した際の力を規定値以下に制限する方式。最も一般的な協働方式です。
人体への許容接触力の基準
ISO/TS 15066では、身体部位ごとに許容される接触力の上限が定められています。
主な身体部位の許容力
- 頭部・額:130N(約13kg相当の力)
- 胸部・腹部:140N
- 上腕:150N
- 前腕:160N
- 手のひら:140N
協働ロボットは、これらの基準値を超えない力で動作するよう設計されています。ロボットの動作速度、可搬重量、エンドエフェクタの形状などを総合的に評価し、安全性が確認されます。
リスクアセスメントの重要性
国際規格への適合だけでなく、実際の導入現場における個別のリスクアセスメントが不可欠です。
評価すべき項目
- 作業内容と人との接触可能性
- エンドエフェクタ(グリッパー等)の形状と安全性
- 扱うワークの重量と形状
- 周辺設備との干渉リスク
- 作業者のスキルレベルと教育状況
このリスクアセスメントに基づいて、必要な追加の安全対策を講じます。
導入時に実施すべき安全対策
協働ロボット自体の安全機能に加えて、導入現場で実施すべき安全対策があります。
安全教育とトレーニング
ロボットを操作する作業者に対する十分な教育が重要です。
教育内容
- ロボットの基本的な動作原理
- 衝突検知機能の仕組みと限界
- 非常停止ボタンの位置と使用方法
- ロボットティーチング時の安全手順
- 異常時の対応手順
- 定期点検の方法
製造業 自動化を進める際、技術だけでなく人への教育投資も同様に重要です。
作業エリアの明確化
安全柵は不要でも、ロボットの作業エリアを明確にすることは推奨されます。
エリア表示の方法
- 床面へのテープやマーキング
- ライトカーテンによる仮想境界
- 点滅灯による動作中の表示
- 警告表示板の設置
これにより、作業者がロボットの動作範囲を認識しやすくなり、不用意な接近を防げます。
非常停止装置の配置
協働ロボットには非常停止ボタンが標準装備されていますが、複数箇所に設置することでさらに安全性が高まります。
推奨配置
- ロボット本体の操作パネル
- ティーチングペンダントまたはPC
- 作業エリアの入口付近
- 監視者の位置
緊急時にどこからでもすぐに停止できる環境を整えることが重要です。
定期的な安全点検
導入後も継続的な安全確認が必要です。
点検項目
- 衝突検知機能の動作確認
- 非常停止ボタンの動作確認
- ケーブル類の損傷チェック
- エンドエフェクタの固定状態確認
- ソフトウェアのアップデート状況
メーカー推奨の点検スケジュールに従い、記録を残すことが重要です。
実際の現場における安全運用事例
協働ロボットを安全に運用している実例を紹介します。
電子部品組立ラインでの事例
作業者とロボットが隣り合って組立作業を行う現場では、「速度と距離の制御」方式を採用しています。作業者がロボットに近づくとビジョンセンサーが検知し、ロボットが自動的に速度を落とします。作業者が離れると通常速度に戻るため、安全性と生産性の両立が実現しています。
金属加工の機械装填作業での事例
NC旋盤へのワーク供給にロボットを使用する現場では、「力と出力の制限」方式で運用しています。万が一作業者がロボットと接触しても、許容力以下で停止するため、重大な怪我にはつながりません。実際に軽微な接触が数回発生しましたが、いずれもロボットが即座に停止し、無事故を維持しています。
パレタイジング作業での事例
重量物を扱うパレタイジング作業では、安全柵は設けないものの、床面にテープで作業エリアを明示し、作業者に注意喚起しています。さらにレーザースキャナーを併用し、作業者が近づいた場合はロボットを一時停止させる多層防御を実現しています。
今後の安全技術の進化
協働ロボットの安全技術は、今後さらに進化していきます。
AI技術の活用
AIによる画像認識技術を活用し、人の動きを予測して事前に安全対応する技術が開発されています。例えば、作業者の歩行方向から「ロボットエリアに入りそう」と予測し、事前に減速を開始するといった対応が可能になります。
ウェアラブルデバイスとの連携
作業者が装着するウェアラブルデバイスとロボットが通信し、より高度な安全管理を実現する取り組みも進んでいます。作業者の位置情報、バイタルサイン(心拍数など)をリアルタイムで把握し、異常を検知した場合は自動停止するといった機能が検討されています。
触覚フィードバック技術
ロボットが人と接触した際の力を作業者に触覚フィードバックする技術により、遠隔操作でも安全な協働作業が可能になると期待されています。
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まとめ
協働ロボットは、衝突検知機能をはじめとする高度な安全技術により、人と同じ空間で安全に作業できる革新的な存在です。トルクセンサーによる力覚検知、国際安全規格への適合、そして現場での適切な安全対策により、人とロボットの真の協働が実現しています。
重要なのは、ロボットの安全機能に過度に依存せず、リスクアセスメント、作業者教育、定期点検など、総合的な安全管理体制を構築することです。安全柵が不要という協働ロボットの特徴は、単なる省スペース化ではなく、製造業 自動化における新しい作業形態を可能にする革新なのです。
愛知 ロボット市場をはじめ、全国の製造現場で協働ロボットの導入が進んでいます。その背景には、確かな安全技術に支えられた信頼性があります。人手不足や生産性向上の課題に直面する製造業にとって、安全に人と協働できるロボットは、これからの製造現場に不可欠な存在となるでしょう。