金属加工の世界では、通常の切削工具では対応できない複雑な形状や、極めて高い精度が要求される部品の製作が日常的に発生します。そんな時に威力を発揮するのが「ワイヤーカット放電加工」です。本記事では、ワイヤーカット放電加工の原理とメリット、そして実際の活用場面について詳しく解説します。

参考:

愛知県の金属加工の特急納品ならイレイズグループ

ワイヤーカット放電加工とは

加工の基本原理

ワイヤーカット放電加工は、細い金属線(ワイヤー)と工作物の間に放電現象を発生させ、その熱エネルギーで材料を溶かしながら切断していく加工方法です。直径0.1~0.3mm程度の真鍮製ワイヤーが使用され、このワイヤーと工作物の間に数万ボルトの電圧をかけることで放電を起こします。

重要なポイントは、ワイヤーと工作物が直接接触しないことです。わずかな隙間を保ちながら放電を繰り返すことで、工作物を徐々に溶かして切断していきます。この加工は加工液(主に脱イオン水)の中で行われ、加工液は冷却と加工屑の排出の役割を果たします。

他の加工方法との違い

通常の切削加工では、エンドミルやドリルといった工具が材料に直接触れて削り取ります。一方、ワイヤーカット放電加工は非接触であるため、材料の硬さに関係なく加工できるという大きな特徴があります。

焼入れ後の硬い材料や、超硬合金のように工具での切削が困難な材料でも、電気が通る材質であれば加工可能です。この特性により、製造業の自動化設備で使用される高硬度部品の精密加工に広く活用されています。

ワイヤーカット放電加工の5つのメリット

1. 複雑な形状を高精度に加工できる

ワイヤーカット放電加工の最大のメリットは、複雑な2次元形状を高精度に加工できることです。CADで設計したデータをそのままプログラムに変換できるため、以下のような加工が可能です。

加工可能な形状例

  • 微細な角部や細い溝
  • 複雑な曲線形状
  • 内側に閉じた形状(抜き加工)
  • テーパー形状(上下で異なる形状)
  • 精密な位置決め穴

特にロボットティーチング用の治具や位置決めピンなど、μm単位の精度が要求される部品の製作に適しています。

2. 材料の硬さに影響されない

焼入れ処理後の硬化材料や超硬合金など、通常の切削工具では加工が困難な材料でも問題なく加工できます。これにより、以下のような加工が可能になります。

  • 焼入れ後の精密仕上げ加工
  • 金型の微細加工
  • 超硬製の治具やゲージの製作
  • 高硬度部品の形状修正

製造業の自動化では、耐摩耗性を高めるため焼入れ処理を施した部品が多用されます。ワイヤーカット放電加工なら、焼入れ後でも高精度な加工が可能です。

3. 切断面の品質が優れている

放電加工では材料を溶かして除去するため、切削加工のようなバリの発生が最小限に抑えられます。また、適切な加工条件を設定することで、表面粗さRa0.8μm程度の仕上げ面を得ることができます。

仕上げ加工では、荒加工、中仕上げ、仕上げと段階的に加工条件を変えることで、さらに高品質な加工面を実現できます。

4. 薄肉部品や細い部品も変形せずに加工できる

通常の切削加工では、切削力によって薄肉部品が変形したり、細い部品が折れたりするリスクがあります。しかし、ワイヤーカット放電加工は非接触加工のため、加工力がほとんどかかりません。

そのため、以下のような加工が可能です。

  • 0.1mm以下の薄板加工
  • 細いスリット加工
  • 繊細な形状の抜き加工
  • 変形しやすい材料の精密加工

愛知のロボット関連企業では、センサー取り付け用のブラケットや精密な位置決め部品など、薄肉で複雑な形状の部品が必要とされます。金属加工の特急納品ならイレイズグループのようにワイヤーカット放電加工設備を保有する業者であれば、こうした難易度の高い加工にも対応できます。

5. プログラム加工による高い再現性

CNC制御によるプログラム加工のため、同じ形状を何度でも同じ精度で再現できます。試作から量産まで、品質を安定させながら生産できることは、製造現場にとって大きなメリットです。

また、一度プログラムを作成すれば、次回からは短時間でセットアップできるため、リピート品の納期短縮にもつながります。

ワイヤーカット放電加工が活用される場面

金型製作

プラスチック成形用金型や、プレス金型のパンチ・ダイの製作では、ワイヤーカット放電加工が不可欠です。複雑な形状を高精度に加工でき、かつ焼入れ後の加工も可能なため、金型製作の効率化に貢献しています。

精密治具・ゲージ類

測定用ゲージや組立治具など、高精度が要求される工具類の製作にも広く使用されています。±0.005mm程度の公差管理が必要な部品でも、ワイヤーカット放電加工なら安定した品質で製作できます。

試作部品の製作

複雑な形状の試作部品を少量製作する際にも、ワイヤーカット放電加工は有効です。切削工具を準備する必要がなく、CADデータから直接加工できるため、短納期での対応が可能になります。

自動化設備用部品

製造業の自動化設備では、精密な位置決めが必要な部品が多数使用されます。ロボットの取り付けブラケットや、センサー固定用の精密部品など、高精度と複雑形状を両立させる必要がある部品に最適です。

ワイヤーカット放電加工の制約と注意点

加工速度が遅い

放電加工は材料を少しずつ溶かしていく加工方法のため、切削加工と比べて加工時間が長くなります。特に厚い材料や、仕上げ精度を高める場合は、数時間から数十時間かかることもあります。

導電性材料にしか使えない

放電現象を利用する加工のため、電気を通さない材料(プラスチック、セラミック、ゴムなど)は加工できません。対象は金属や導電性を持つ材料に限定されます。

加工できる形状に制限がある

ワイヤーが通る形状にしか加工できないため、完全に閉じた内部の空間や、ワイヤーが入らない狭い部分は加工できません。また、基本的には2.5次元加工(上下貫通した形状)が中心となります。

発注時のポイント

ワイヤーカット放電加工を依頼する際は、以下の点を確認しましょう。

  • 加工可能な板厚の範囲
  • 加工精度の保証値
  • 納期(加工時間は形状により大きく変動)
  • テーパー加工の対応可否
  • 表面粗さの指定が可能か

また、図面には以下の情報を明記することで、スムーズな見積もりと加工が可能になります。

  • 材質と板厚
  • 要求精度(寸法公差)
  • 表面粗さの指定
  • 数量
  • 納期

まとめ

ワイヤーカット放電加工は、複雑な形状を高精度に仕上げる加工方法として、製造現場で欠かせない技術となっています。材料の硬さに左右されず、薄肉部品でも変形させずに加工できるという特性は、他の加工方法では実現できない大きなメリットです。

金型製作、精密治具、自動化設備用部品など、高精度が要求される部品の製作では、ワイヤーカット放電加工を積極的に活用することで、品質と効率の向上が期待できます。加工方法の選択に迷った際は、経験豊富な金属加工業者に相談し、最適な加工方法の提案を受けることをお勧めします。

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